働く人を取り巻く環境は、以前にも増して厳しくなってきている。本年6月に発表された労災補償状況においては「過労死」等の請求ならびに支給決定は減少傾向が認められたが、「精神障害」の支給決定件数は1件増加で過去最高となっている。企業におけるメンタルヘルスケアがますます重要になってくる。本年3月には「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援のための手引き」が改訂され、4月には「心理的負荷による精神障害に係る業務上外の判断指針」の一部改正がなされた。いわゆるパワーハラスメントが強度Ⅲとして認められた。いまや、ゆとりある企業は存在しないのであろうか。厳しい経済環境の下、企業が生き残るためには、人件費など経費を節約して利益を生み出さなければならないが、一方では、働く人の健康問題が、労災認定され、また民事訴訟となり多額の賠償金の支払いが命じられることになる。そしてそこには事業者、上司と被災した労働者の間に気まずい思いがうごめくことになる。自社の製品すら認めることができない従業員が生み出されることにもなりかねない。健康上の問題で離職したとしても、企業の誠意ある対応があれば、勤めていた企業に対する思いは変わらない、と思う。「いい会社に勤めることができた」と退職時に言いたいものだ。
WHOのレポートには「労働は重要であり、また自尊心および秩序観念形成の上で大きな心理的役割を演じると指摘されている。労働は人間の自己認知を形づくる大きな力なのである。そして、それは生存に活力を与え、日・週・月・年の周期的パターンを形成するのである。」として雇用の社会意義、即ちCSRについて言及している。
健康経営は、経営者、管理監督者、労働者、健康保険組合、さらには産業保健スタッフがそれぞれの力を出し合ってお互いの健康を気遣い、そしてそれぞれの利益を生み出す考え方である。前途多難な道のりであっても、英知が結集すれば切り開けるものだと確信している。