健康経営研究会

パンデミックによってもたらされた社会不安

パンデミックによってもたらされた社会不安

現代社会はVUCAの時代とされている。VUCAは、Volatility(激動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)そしてAmbiguity(曖昧性)の頭文字で、現代社会の情勢を表現している。リーマンショックに代表される経済的激変、Covid-19によるパンデミックがもたらした国際経済への大きなインパクトとともに国と国の行き来が遮断され、あたかも鎖国のような状況に陥ったこと、そしてそれに追い打ちをかけるように我が国では、所々で地震の発生が報道されている。パンデミックにより、我が国の自殺者が増加したことは、海外メディアでも報道され、その誘因として、失業、社会的不安、ドメスティックバイオレンスなどが指摘された。社会の大きな変化が、雇用をも奪い、心理的不安感を増大させ、社会的不安を増大させ、社会に対する不安障害や適応障害を誘発したのであろう。

デュルケームはその著書「自殺論」において、「自己本位的自殺は、社会があらゆる部分において十分に統合されておらず、そのためにすべての成員の拠りどころとなることができないところから発生する。」とし、「その病弊をふせぐには、社会集団を十分恭子にして、個人をもっとしっかりと掌握できるようにするとともに、個人自身も集団にむすびつくようにさせること以外に方法はない。」としている。ソーシャルキャピタルについての言及であるが、本来その役割を果たす企業集団の力が十分発揮できていないのかもしれない。

労働は、やりがいや働き甲斐を生み出し、その結果、チームワークという労働が創造され、お互いに信頼関係のもと、共通の目的を持ってともに進んでいく道が出来上がるのであるが、その道が強固であれば、VUCAの環境下でも前進することが出来ると思う。いい仕事をするためには、持てる力を十二分に発揮できるようにしなければならないが、その源泉として健康がある。現代社会における健康は、3つの安全性の確保が必要である。雇用の安全性、身体的安全性、そして心理的安全性である。

私たちにとって先行き不透明は道を進むことは大きな不安であるが、安心できる強固な道があれば、躓くこともなく、予期不安も小さい。

昨年提言した「健康経営の深化」においては、労働者の健康と企業経営の両立に、社会の成長を加え、この三者が共進する関係を構築することの重要性を強調した。そして、そこには、経営者の倫理が必要であるとした。「人として守るべきもの」を追求する経営者が、VUCAの暗雲から垣間見ることができる明るい社会を実現するのであろう。

理事長 岡田 邦夫


出典:デュルケーム著 宮島 喬訳「自殺論」中公文庫 2018年