健康経営研究会

21世紀は感染症の時代です

21世紀は感染症の時代です

日本の企業は、例えばメンタルヘルス不調で完治していない(ここでは十分に就業できない状況)でも復職を求めますし、また、その方が本人にとってはいいのだろうと復職を許容する風土があります。心の不調の発見が遅れ、かなり悩んでから休業して、何となく出社しなければいけないという使命感に追い打ちされ、完治せずに復職する、という好ましくないサイクルが、結果としてプレゼンティーズムを誘発しているように、経験上感じています。

さらに、復職してからなぜ仕事が十分できず、例えば50%もできないことに対して上司がいら立ちをあらわにすることがあります。この状況が、今回のコロナウイルス感染症と同じであるように感じています。30%でもいいから休むことなく働くことで本人も上司もよしとするか、いっそのこと3か月休んで、その後徐々に効率的に働けるようにするのでは、どのような結末が待っているのでしょうか。前者は、おそらく1年後には、長期休業になり、その後のウォーミング期間もかなり長くなり、かつ再発のリスクが高くなることを思えば、自ずとその対応は決まってくると思います。

言葉は問題ですが、いわゆる「病み上がり」が極めて大切です。しかし、病まないことがもっと大切です。無理をするな、といっても出社してくる部下に対して、医師の判断はともかくとして、上司として部下の職務遂行能力を見極めることが極めて大切な上司の能力だと思います。この判断力とその結果に基づく決断力が健康経営のあるべき姿であろうと思います。

どのステップにおいても、中途半端、というのが企業に40年産業医として務めていて感じたことです。しかし、一従業員の時からいろいろとお話をした方が上司になったときに、その対応が、従来の上司と大きく異なってきたことを感じたときに、大学病院に帰らずに、企業で産業医を継続してよかった、と思うことがありました。確かに、ある年配の管理職から、その昔、「先生、会社で社長や役員にもなれないのに、なぜ産業医で何年も務めるのか、わかりませんわ」と言われたことを思い出しました。

入社から退職まで一産業医で終わりましたが、中立の立場からするとこれでよかったのかもしれません。最近は、産業医の先生が執行役員など経営に関わるようになってきました。これはまさしく経営者の先見の明だと思います。健康経営が広く普及することになったことが大きな要因である、のかどうかわかりませんが。。

 

健康づくりが生命にかかわる問題に

今回のコロナウイルス感染症で亡くなられた方の合併症について、WHO中国の共同研究では、心血管疾患が最も多いと報告されています。また、糖尿病、高血圧、慢性呼吸器疾患などの基礎疾患のある方も危険性が高いとの報告です。今まで長年にわたって、禁煙、生活習慣病の予防対策などを企業が産業保健スタッフと一緒に実施してきましたが、その効果ははたしてでているのでしょうか。企業全体で、ヘルスリテラシーは高まったのでしょうか。

 

働き方改革が一気に進みます

今回のコロナウイルス感染症によって、働き方改革は待ったなしです。在宅勤務は、おそらくパフォーマンスが30%以上低下し、いわゆるプレゼンティーズム状態で、かつ運動不足で生活習慣病が増え、家庭では、おそらく仕事に集中できず(ご家族との関係で)、ストレス増大、家庭不和、・・・メンタルヘルス不調が起こりうることはわが国では容易に想像できます。企業体力とは、果たして、このような時に明らかになると思います。それも経営者の判断と実行力に依存するところが大です。

企業がどのような将来像を描いているのか、またその具体的対策をどうするのか、昨年開催したG20保健大臣会合におけるイベントのテーマ「Value Based Healthcare」が求められている(結果を出すこと)ことが重要であることわかります。それは企業未来にもかかわることです。

大学病院に勤めていては、わからなかったことが、産業医を長年務めることで社会勉強ができたように思っています。私の信条である、危ないと思うことは何倍にも増幅して感じ取り対処し、安全であると思うことは半分以下に評価して対応する、ということが若い人達に理解してもらえなくなってきたようで、なんとなく寂しい限りです。

この長いコロナウイルスによる自粛期間をやり過ごす自信は、だんだんとなくなってきつつあります。加齢のせいでしょうか。