健康経営研究会

変遷する職域のメンタルヘルス

変遷する職域のメンタルヘルス

変遷する職域のメンタルヘルス

労働者のメンタルヘルス対策、今ではこれは当たり前となり、健康経営においても重要な柱の一つです。しかし高度経済成長期にはこのような動きはありませんでした。 いつ頃から、なぜ、メンタルヘルスが注目されるようになったのでしょうか。そして現状はどうなのでしょうか。

健康保持増進措置(THP)が努力義務化された1988年頃は、健康な労働者対応が中心でした。ところが2000年頃から、スマートフォン、メール、インターネットやSNSの急速な普及など情報化社会が到来し、社会構造が急激に変化しました。 単純作業は機械化され、仕事としてプログラミングなど最新知識による複雑な仕事や接客業など対人交流が必要なものの割合が増え、その双方を兼ねた新たな仕事(Youtuberなど)も現れました。 急激な変化に適応できずメンタルヘルス不調となる者が急増し、また精神障害による自殺が注目されたことからも、国から労働者のメンタルヘルスに関する様々な指針や手引きが出されるようになりました。 2011年には精神疾患が4大疾病(心臓病、がん、脳卒中、糖尿病)に加えられ、現在は5大疾病として対策強化されています。社会構造の急激な変化は前触れなく訪れ、メンタルヘルスを含む多面的な影響が生じます。

さて現在です。2019年末からコロナ禍が世界的に広がり、未だ収まる気配を見せません。それに合わせ社会構造や労働環境も大きく変わりつつあります。 代表的なものは働き方の変化でしょう。確かに在宅勤務などでは、通勤時間も感染の危険もない、公私の両立が可能、体調不調時でも自分のペースが保てる、働き方改革が推進できる、など多くの利点はあります。

一方、人によっては公私の切り替えがしにくい、双方向性がなく一方的な指示・情報が与えられる、ラインケアが困難、単身者は自尊心の低下から抑うつ的となりやすい、など多くの問題も指摘されています。 WEB会議にも、参加者の周囲環境がわからない、感情が掴めない、腹を割った情報交換や雑談がしにくいなど、様々な負の側面が指摘されています。 個人のストレス発散、よく言われた飲食や雑談、旅行やカラオケ、全てが困難となっています。医療体制も産業保健体制も整備が追いつきません。国も対策を模索している段階です。

コロナ禍の初期は感染への恐怖、その後は社会の変化への不適応、忍耐の継続疲れなど、メンタルヘルス不調の様態は時とともに変化しています。 最近では、飲食・宿泊など特定業種への過大な経済的な負担、若年・女性・非正規労働者への心理的負担、そしてその両者が原因となり自殺の増加が話題になっています。

コロナ禍に端を発した社会構造の急激な変化はまだ続きそうです。健康経営ではメンタルヘルス対策が重要な柱の一つですが、その実践には社会の変化や将来を十分に検討し、先を見据えた対応が求められます。

理事・井上 幸紀