健康経営研究会

サイバー攻撃と個人のBCP 

サイバー攻撃と個人のBCP 

サイバー攻撃と個人のBCP

 ある朝、突然、勤務先のインターネットにつながらなくなり、勤務先のメールも使えなくなった。一時的な障害だろうと思っていたが、復旧しない。同僚からサイバー攻撃ではないかという話を聞き、まさかと思っていたところ、週明けに記者会見が開かれ、サイバー攻撃と考えられる影響が一定期間続く見込みであることが発表された。

思いもよらない事態に直面した。勤務先のメールにサインインできず、届いているはずのメールも読めないし、送ることもできない。特に困ったのは、過去のメールを確認できないことだった。相手のメールアドレスさえ分からず、PDFに保存していたメール情報などを頼りに、必死で連絡先を探した。何とか情報を集め、主要な相手には事情を説明し、勤務先以外のメールアドレスを伝えたうえで、重要なやり取りの再確認をお願いした。

全国ニュースでも報じられたため、事情を理解してくださった方も多かったようだ。しかし、報道を見ていない方や、ニュースと私を結び付けられない方には、今もご迷惑をおかけしているのではないかと気がかりだ。職場へのサイバー攻撃が、個人の仕事や人間関係にまで、これほど大きな影響を及ぼすとは思っていなかった。

この経験から、携帯電話についても考えさせられた。私の携帯電話には、定期券、身分証明書、クレジットカードなど、生活に必要な情報や機能が集約されている。これまで紛失したことはないが、旅先で落としたり、故障したりして突然使えなくなったらどうなるだろう。本人確認ができない、連絡先が分からない、支払いができないなど、日常生活に支障を来す可能性がある。

BCP(事業継続計画)とは、自然災害やサイバー攻撃、感染症の流行、システム障害などの緊急事態に際し、企業が被害を最小限に抑え、重要な事業を継続・早期復旧するための計画である。被害を防ぐことに重点を置く防災に対し、BCPは被害が発生することも想定し、その後の事業継続や復旧に備える点に特徴がある。

BCPについて理解していたつもりだったが、企業の事業継続ばかりに目が向き、個人としての備えが不十分だったことに気づかされた。

では、個人にとってのBCPとは何だろう。重要な連絡先を紙にも控える、必要な情報を安全な場所にバックアップする、現金を携帯する、端末を紛失した際の連絡・停止手段を確認しておく。こうした小さな備えが、いざというときの安心につながるはずだ。

健康経営では、従業員が安心して働ける環境づくりも重要である。企業のBCPだけでなく、従業員一人ひとりが不測の事態に備えられるよう支援することも、その一環ではないだろうか。個人もまた、リスクを想定し、対策を講じ、定期的に見直す。PDCAサイクルを回しながら、デジタル化した生活を守るための「個人のBCP」を考えてみたい。

2026年11月 
理事 井上 幸紀